子宮体がんはがん細胞の遺伝子の特徴によって、大きく4つの分子タイプ(分子分類)に分けられることが明らかになっています。日本では化学療法が術後補助療法の主流として行われていますが、国際的には分子分類や再発リスクに応じて、放射線治療を活用する流れが広がっています。
化学療法の場合、一時的に髪の毛が抜けることがありますが、放射線治療の場合、頭部に照射されない限り髪の毛が抜けることはありません。(子宮体がんの場合、頭部に照射することは原則ありません。)
当院では、分子分類や再発リスクを踏まえ、放射線治療を中心とした治療方法を提案し、髪の毛の脱毛による心理的負担や、仕事・育児・介護などの日常生活との両立に配慮した治療を目指します。
①高精度放射線治療に対応
当院では、体の外からがんに集中的に放射線を照射する外照射(IMRT・IGRT・VMAT)から、体の中からがんの近くに集中的に放射線を照射する腔内照射(VBT)まで幅広く対応しています。これらを適切に組み合わせ、局所を的確に狙い、放射線治療による副作用を最小限にします。子宮体がんの場合、頭部への照射は原則行わないため、放射線治療による頭髪の脱毛は起きません。
②国際的な診断基準に基づく治療設計
病期(FIGO)・グレード・筋層浸潤・リンパ管侵襲(LVSI)・切除断端などから判断する再発リスクと、分子分類( POLE・dMMR・NSMP・p53 )を踏まえた治療方針の検討を行います。NSMPの場合、さらにER(エストロゲン受容体)の検査結果を踏まえて検討します。
③分子分類を活用した個別化治療のご提案
治療方針については、病理結果、画像所見、体調、患者さんのご希望といった情報を多角的に総合判断します。特に、分子分類と再発リスクの情報を重要な判断材料として活用し、患者さん一人ひとりに最適な治療方針を検討します。当院では、分子分類においてPOLEは自費、 dMMR・NSMP・p53は保険診療で評価できる体制を整えており、これらの情報に基づき、高精度放射線治療を含めた集学的治療について、複数の選択肢の中から治療内容を丁寧にご説明・ご提案いたします。
①POLE変異型(POLE):とても経過がよいタイプ
比較的再発リスクが低いとされ、多くの方は追加治療を行わず経過観察を基本とします。
がんの状態により、腔内照射を検討します。
② MMR欠損(dMMR):DNAの修復機構が欠損しているタイプ
放射線治療を中心的に行い、局所をコントロールします。がんの状態により外照射や腔内照射を選択し、必要に応じて抗がん薬を逐次追加します。
③NSMP:いずれの分子分類にもあてはまらない、予後が中間的なタイプ
エストロゲン受容体(ER)の有無によって治療方針を検討します。
・ER陽性(10%以上):比較的良好な経過が期待されます。
低リスクでは経過観察、中間リスクは腔内照射を基本とします。
・ER陰性(10%未満):再発リスクがやや高く、中間リスク以上では外照射を優先的に行います。
状況に応じて抗がん薬を逐次追加します。
※低リスクでは術後ホルモン療法は原則行いません。高リスクで化学療法が難しいER陽性に限り、例外的に内分泌療法(プロゲスチン等)を検討します。
④p53異常型:4つの分子タイプの中で最も予後が悪いタイプ
放射線治療と抗がん薬を組み合わせた治療を基本とします。多くの場合、外照射と、段階的にTC(パクリタキセル+カルボプラチン)療法を行いますが、状況により、同時化学放射線療法も検討します。
①病理診断
手術検体を確認し、グレード、筋層浸潤(50%未満/以上)、リンパ管侵襲(LVSI)、頸部への広がり、切除断端の状態から再発リスクをみます。
②分子分類検査
がんの遺伝子の特徴を調べます。
POLE:保険適用外のため自費(5万円/希望制)
MMR・p53・NSMPに該当した場合、ERを評価します。
※検査の詳細については外来でご説明いたします。
③個別カンファレンス
再発リスクと分子分類検査の結果をもとに、患者さんに合わせた治療方針を作成します。
④治療計画をご説明
治療のメリットや副作用、通院スケジュールをお伝えします。説明の上、ご同意いただいた後、計画に沿って治療を進めます。
⑤放射線治療開始
腔内照射(VBT)/外照射(EBRT)を実施します。必要に応じて抗がん剤を逐次追加します。
⑥フォロー
診察・画像検査・採血を行い、治療の効果をみます。
POLEのみ自費診療での検査となりますが、希望される方のみ実施いたします。
その他の分子分類検査については保険診療で実施・評価いたします。
Q.放射線治療は痛いですか?
A.痛みはありません。1回あたりの時間は短く、外来通院で行えます。
Q.髪の毛は抜けますか?
A.放射線単独では抜けません。抗がん薬の併用が必要な場合は、一時的に抜けることがあります。
Q.自費の分子分類は必ず必要ですか?
A.いいえ、必須ではありません。当院では**POLEのみ自費(5万円)**で実施可能、MMR・p53・ER等は保険診療で評価します。詳細は外来でご説明します。
Q.仕事は続けられますか?
A.多くの方が通院しながら治療を続けています。勤務形態に合わせて調整します。
Q.分子分類の検査方法は?
A .分子分類(子宮体がんをタイプ別に分ける検査)は、原則として「腫瘍の組織(がんの部分)」を使って行います。
多くの場合、すでに行っている検査の延長で実施でき、新たな痛みを伴う処置が増えることは基本ありません。