重要なお知らせ

膀胱がん

膀胱は、おへその下、下腹部に位置し、腎臓で作られた尿をためる臓器です。膀胱の内側にある、尿路上皮と呼ばれる粘膜から発生した悪性腫瘍のことを、膀胱がんといいます。年間人口10万人あたり約15人が膀胱がんと診断され、50歳以上、男性の方に多く発生すると言われています。はじめはまったく他の症状がなく血尿だけ出る特徴で、痛みのない血尿のある患者さんの約20%は膀胱がんと診断されると言われています。赤い尿が出た場合は早めに受診してください。細菌感染が起きたり、進行がんになると頻尿や排尿時痛を伴うようになります。
膀胱がんの原因は未だにはっきりとはわかっていませんが、喫煙者の方に膀胱がんが発生しやすいことは分かっており、喫煙者は非喫煙者に比較して2~4倍、膀胱がんの発症リスクを高めるとされています。その他、職業上特殊な染料(ナフチルアミン、ベンチジンなど)を使っていた方もリスクが高いと言われています。
膀胱がんの多くは膀胱の内面を覆っている尿路上皮という粘膜から発生する尿路上皮がんです。早期の段階ではがんが粘膜内にとどまっていますが、進行するとともに粘膜下層、筋層、外膜、膀胱外へと広がっていき、さらにリンパ節、肺、肝臓などへ遠隔転移を起こしていきます。

目次

当院で可能な検査

尿検査 / 尿細胞診

血尿や感染症の有無を調べます。尿細胞診では尿の中の細胞を顕微鏡で調べ、尿の中に“がん細胞”がいないか調べます。尿細胞診ですべての膀胱がんの診断がつくわけではありませんが、悪性度の高い(つまり進行が早い悪いがん)腫瘍の診断にはとても有用です(陽性率70%、特に上皮内がんの場合80-90%の陽性率)。一方、悪性度の低いがんの場合、陽性率は20%程度で高くありません。尿細胞診で陽性になった場合、膀胱を含めた尿路のどこかに、がんが存在している可能性が高いと判断します。

腹部超音波検査

健康診断や、外来での初期検査でよく行われます。膀胱内に突出するような腫瘍であれば超音波検査で診断できますが、膀胱結石や血塊などとの区別が困難なことがあります。また膀胱の表面を這うように広がる上皮内がんは診断が困難です。尿管に腫瘍がある場合、尿の通り道が塞がり、腎臓が腫れる水腎症も診断できます。

CT/造影CT(CT-Urography)

水腎症の有無や腎盂・尿管腫瘍の合併の有無を調べることができます。また膀胱がんのリンパ節、肺、肝臓などへの転移の有無も調べることができます。がんの深達度(膀胱筋層へ広がっているかどうか)を調べる意義もありますが、深達度の診断にはMRIの方が優れています。 最近では造影剤を使用したCT-Urography(シーティーウログラフィー)という検査で尿の通り道をより詳細に調べることがあります。CT-Urographyは特に上部尿路(腎盂、腎杯、尿管)の病気の有無を調べるのに有用です。

MRI

膀胱がんの深達度(病巣の深さ)を調べる目的で行われます。深達度診断では現在もっとも優れている検査です。MRIのT2強調画像という撮影方法で、膀胱内の尿は白く、膀胱の筋肉は黒く見えます。 体内に金属(ペースメーカーや脳のクリップ、整形外科手術後の人工物、入れ墨など)が入っていたり、狭いところが苦手な(閉所恐怖症)患者さんは行えない可能性があります。

膀胱鏡検査(内視鏡検査)

膀胱がんの存在を確認するための、最も確実で大切な検査です。たいていは局所麻酔のゼリーを尿道から注入し行われますが、やわらかい内視鏡(軟性鏡)を用いていますのでさほど苦痛もなく受けることができます。 ただし、検査後に時に血尿や排尿痛、発熱などが起こることがあります。痛みを伴わない血尿で受診した患者さんには、受診日当日に行わせていただく可能性があります。
膀胱鏡検査ではがんが発生している場所や数ばかりではなく、形状や大きさなどから悪性の度合いも知ることができます。もちろん、がんの見た目だけでどの程度深く広がっているかは確実にはわかりませんが、その後の治療(特に経尿道的切除術を行う際)方法などを決定するうえで、大切な所見になります。

膀胱がんのステージ分類

膀胱がんは、①がんの深達度、②リンパ節への転移の有無、③他の臓器への転移の有無について評価を行い病期を決定します。ここでは、国際的に用いられているTNM分類を簡単に解説します。

がんの深達度(T分類)

膀胱がんの深達度(病巣の深さ)は、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)の病理結果により、CIS(上皮内がん)、Ta、T1、T2、T3、T4と分類されます。がんが粘膜から粘膜下層にとどまっているCIS、Ta、T1を「表在性がん」、筋層に及んでいるT2以上を「浸潤性がん」に大きく二分し、治療法を検討します。 T2a(膀胱の壁の浅い表層のがん)までは転移が少なく、手術による治癒率が高いのですが、T2b(膀胱の壁の深層へ浸潤)以上になると転移が多くなるので完治困難になることが少なくありません。 したがって、病期をできるだけ正確に知ることが治療法を選択するうえで必要です。

リンパ節の転移の有無(N分類)

N0:領域リンパ節転移なし
N1:小骨盤内の単発性リンパ節転移
N2:小骨盤内の多発性リンパ節転移
N3:総腸骨リンパ節転移

他の臓器への転移の有無(M分類)

M0:遠隔転移なし
M1a:総腸骨リンパ節をこえるリンパ節転移
M1b:リンパ節転移以外の遠隔転移

これらT、N、Mの組み合わせによって、膀胱がんの病期分類がされます。

当院で可能な治療

がんの深達度は画像診断のみでは確実ではありません。膀胱がんと診断された場合、がんの深達度診断(表在がんなのか浸潤がんなのか)、組織型の確認、悪性度を確認するためにがんを切除、採取し病理診断をするために経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を行います。

表在性膀胱がん

表在性の膀胱がんであれば、TUR-BTで腫瘍を完全に切除することで完治を期待できます。比較的短期間の入院で、痛みも少なく手術を受けられますが、膀胱がんは再発を起こしやすいため、TUR-BT直後に抗がん剤の膀胱内注入を行ったり、病理結果の確認後に抗がん剤やBCGの膀胱内注入療法を行うことがあります。

浸潤性膀胱がん

浸潤性膀胱がんと診断された場合には、膀胱全摘除術+骨盤内リンパ節郭清術が標準治療になります。男性は膀胱だけでなく前立腺、精嚢、尿道(最近は温存する場合もあります)を、女性では膀胱、子宮(卵巣)、膣の一部を一緒に摘出するのが一般的です。(がんの場所や拡がりによって、子宮、卵巣を温存できる場合があります。)

転移性、進行性膀胱がん

膀胱全摘除術を受けた浸潤性膀胱がん患者さんのうち、50%は再発、転移をきたすことがわかっています。また、最初の診察時に既にがんが転移を起こしている倍、基本的にがんを完全に治すことは不可能です。転移しているがんについては、多剤化学療法が標準治療となります。 進行あるいは転移を起こした膀胱がんに対し抗がん剤が効かない場合は、免疫療法が有効な可能性があります。

外科治療(手術)

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)

下半身麻酔あるいは全身麻酔で手術用内視鏡を膀胱内に入れ、高周波電流を用いて、がんを周囲組織を含めて削りとってしまう方法です。もし根の浅い表在性のがんであればTUR-BTで完治できる可能性が高いですが、筋肉まで達している浸潤性のがんであれば、完全に切除することは困難です。この手術は診断と治療を兼ねてほぼ全例に行われます。入院期間は約1週間です。

膀胱全摘除術

手術方法は開腹での膀胱全摘術が一般的ですが、最近は腹腔鏡を用いた腹腔鏡下膀胱全摘除術あるいはロボット支援下膀胱全摘除術も保険診療で可能になりました。当院ではこれまで腹腔鏡下膀胱全摘除術を行ってきましたが、このたびロボット支援下膀胱全摘叙術(RARC)を導入しました。ロボットを使用した膀胱全摘除術のメリットは、腹腔鏡下手術同様に開腹手術と比較して傷が小さく、出血量が少なく、患者さんへの負担が少ない点で、腹腔鏡下手術と比較し、さらに繊細な手術が可能です。治療方法につきお聞きしたい患者さんは、泌尿器科外来担当医に遠慮なくお聞きください。

薬物療法

即時膀胱内注入療法

膀胱がんは再発を起こしやすく、TUR-BTでがんを削り取ったとしても、表在性膀胱がんのうち50%前後は2年以内に再発し、再発を繰り返す間に20%は浸潤性がんへ移行してしまうことがわかっています。そのため、 TUR-BT直後に抗がん剤の膀胱内注入を行い、再発を減らす治療を行います。当院ではMMC(マイトマイシンC)と呼ばれる抗がん剤の即時膀胱内注入療法を行っています。ただし、即時膀胱内注入療法を行っても、再発率の低下は10%程度です。

BCG膀胱内注入療法

手術の病理結果を確認したあとに(TUR-BT後4~6週間後が目安)再発予防として抗がん剤やBCG(ウシの結核菌)の膀胱内注入療法を行うことがあります。これらの膀胱内注入治療は外来で週1回、合計6~8回行いますが、維持療法として以降も注入療法を3か月毎に行っていく場合があります。
病理結果で上皮内がんと診断された場合、TUR-BTでの完治は困難ですが、BCGの膀胱内注入療法を行うことで高率の治癒率(90%程度)が期待できます。BCG膀胱内注入療法は安全な治療ですが、時に血尿, 頻尿, 排尿時痛などの症状や、発熱、関節痛、膀胱の萎縮などの副作用が出ることがあります。週1回副作用の程度を確認しながら、何回行うか決めていきます。

多剤化学療法

転移を起こしてしまった膀胱がんに対し、シスプラチンという抗がん剤を含んだ多剤化学療法が標準治療になります。化学療法としては、GC療法(ゲムシタビンとシスプラチン)、MVAC療法(シスプラチン、メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン)などの抗がん剤を組み合わせ静脈から点滴をする、多剤併用化学療法が一般的です。有効率はGC療法、MVAC療法どちらも同等ですが、当院ではより副作用の少ないGC療法を第1選択治療としています。

免疫療法

進行あるいは転移を起こした膀胱がんに対し抗がん剤が効かない場合、免疫療法が次の治療として有効な可能性があります。膀胱がんに対する免疫チェックポイント阻害薬として、ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)を使用します(保険診療)。1回の治療につき200mgの薬剤を30分かけて点滴から投与します。 当院では外来通院での治療も可能です。一般に抗がん剤より副作用は軽微と言われていますが、免疫に関連した副作用(間質性肺疾患、大腸炎・下痢、皮膚障害、肝機能障害、肝炎・甲状腺機能障害、副腎機能障害)が出現することがあります。

抗体薬物複合体による治療

エンホルツマブベドチン(パドセブ)は膀胱がんの大部分を占める尿路上皮がんの細胞にあるネクチン-4を認識する抗体であるエンホルツマブに、抗がん剤のモノメチルアウリスタチンE(MMAE) を結合させることで、抗がん剤ががん細胞にのみ作用するように工夫した薬剤です。皮膚障害、神経障害、味覚障害、高血糖などの副作用に注意が必要です。

受診方法

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